補償と責任の上限・請求期間

表明保証が事実と違っていたとき、いくらまで、いつまで請求できるのか。契約不適合責任との関係、損害の範囲、上限と最低額、請求期間を条文とともに整理します。

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要点:補償条項は「対象・当事者・金額・期間」の四つが揃って機能します。民法の既定は物の不適合を想定しているため、事業や株式の譲渡では契約で補償を書き、商法526条の扱いと請求期間も一本にまとめます。

このページの要点

  • 補償は「対象・当事者・金額・期間」の四要素で設計する
  • 民法566条の1年の通知、時効(166条)、商法526条を、契約の請求期間と一本化する
  • 損害の範囲は直接損害を中心に、間接損害・逸失利益は含めるか明示する
  • 故意・重大な過失は上限と期間の制限の外に出す(民法572条が「知りながら告げなかった事実」について特約による免責を認めない考え方を、契約で重大な過失にまで広げる)

結論:補償条項は「何を・誰が・いくらまで・いつまで」の四つを決める条項

事業や会社を譲り渡したあとに、説明されていなかった債務が見つかった、保証されていたはずの契約が実は解除されていた、といった問題が出ることがあります。そのとき買主が頼れるのは、法律の既定(民法の契約不適合責任、債務不履行による損害賠償)と、契約書に書いた補償の条項です。補償とは、契約で保証した事項が事実と違っていた場合などに、売主が買主の被った損害を埋め合わせる約束のことです。

契約実務の経験をもとに整理すると、補償条項は四つの要素が揃って初めて機能します。第一に「何が補償の対象か」(保証違反、義務違反、特定の偶発債務など)。第二に「誰が誰に払うのか」(売主から買主へ、場合により買主から売主へ)。第三に「いくらまで払うのか」(上限と、少額の請求を除く最低額)。第四に「いつまで請求できるのか」(請求期間)。このうち一つでも欠けると、条項はあっても使えない、あるいは使うと必要以上に重い、という状態になります。

このページでは、まず法律の既定がどこまで買主を守るのかを確認し、そのうえで契約で上書きするときの考え方を、損害の範囲、上限、最低額、請求期間、時効の順に整理します。表明保証そのものの書き方は表明保証の書き方で、調査結果を価格や解除に結びつける設計は基本合意書と調査で扱っています。ここでは、保証が事実と違っていたあとの「お金と期間」の決め方に絞ります。

補償条項が決める四つの要素

決めておくこと(契約の側)

  • 対象:保証違反、義務違反、特定の債務や紛争など
  • 当事者:請求できるのは誰か、誰が払うのか
  • 金額:上限、最低額(一定額に満たない請求は対象外)、損害の範囲
  • 期間:いつまでに請求の通知をすればよいか

決めないままだと起きること(法律の既定に任される)

  • 対象が広がりすぎる、または保証違反だけでは請求しにくい
  • 請求の相手方が不明確で、清算された売主会社から回収できない
  • 上限がなく、代金を超える請求が理論上ありうる
  • 請求期間が民法の時効や1年の通知期間に引きずられる

左の四つは契約書に書く内容、右はその欠けたときに残る状態です。どちらが売主・買主に有利かは、立場によって変わります。

契約不適合責任との関係:民法の既定は「引き渡された物」の不適合に向けた制度

売買では、引き渡された目的物が種類・品質・数量について契約の内容に適合しないとき、買主は、追完(修補や代替物の引渡しなど)、代金の減額、損害賠償、解除を求めることができます。これを契約不適合責任と呼びます。事業譲渡は、個々の資産や契約を移す取引の集まりですから、売買の規定が及ぶ場面が多くあります。民法559条は、売買以外の有償契約にも、その性質が許さないときを除いて売買の規定を準用すると定めています。

ただし、民法の既定は「目的物に不適合があった」という場面を前提に作られています。たとえば、譲り受けた設備が契約で想定した品質に足りなかった、在庫の数が足りなかった、という場合は、まさに既定の出番です。一方で、事業譲渡や株式譲渡で買主が気にするのは、売主が説明しなかった債務、未払の費用、行政上の指摘、契約の解除通知、従業員との紛争といった、物の品質とは別の種類の問題です。これらは「目的物の不適合」と構成しにくく、条文だけでは請求の根拠が立てにくいことがあります。ここに補償条項を置く意味があります。

契約不適合責任に関する主な条文(民法)

民法562条1項

引き渡された目的物が種類・品質・数量に関して契約の内容に適合しないとき、買主は追完(修補・代替物の引渡し・不足分の引渡し)を請求できる。

契約書では追完の方法を売主が選べる余地があるため、事業の引渡しでは「何を追完とするか」を決めておく

民法563条

相当の期間を定めて追完を催告しても追完がないときは、買主は不適合の程度に応じて代金の減額を請求できる。催告不要の場合もある。

契約書では代金の減額の算定を契約で決めると、争いを減らせる

民法564条

追完請求・代金減額請求の規定は、415条の損害賠償や、541条・542条の解除を妨げない。

契約書では補償条項を置いても、法律上の請求の道を契約で閉じるのかを意識して書く

民法566条

種類・品質の不適合を知った時から1年以内にその旨を売主に通知しないと、追完・減額・損害賠償・解除ができない。売主が引渡し時に悪意または重大な過失の場合は別。

契約書では通知期間を契約で伸ばす、または縮める書き方がよく使われる

民法572条

担保責任を負わない旨の特約をしても、売主が知りながら告げなかった事実などは免れない。

契約書では免責や上限の特約を置くとき、故意や隠した事実は別扱いにする

条文は e-Gov法令検索で確認しています。数量の不適合は566条の通知期間の対象に含まれません(566条は種類・品質に限る)。

民法566条の1年は、「引渡し時」からではなく、「買主が不適合を知った時から」数えます。引渡しから数年たってから見つかった不適合でも、知った時から1年以内に通知をすれば足りる一方で、その通知を怠ると、法律上の請求の多くが失われます。売買の既定は買主を一定程度守る作りですが、通知を忘れたときの失い方は大きいため、契約では「いつまでに」「どの方法で」「何を書いて」通知するのかを具体的に決めておくのが実務でよく見られる整え方です。

株式譲渡では、さらに一段の整理が必要です。買主が買う対象は会社の株式であり、会社が抱える簿外債務や未払の費用は、株式そのものの品質の問題なのか、それとも会社に関する保証違反の問題なのかが、条文だけでは決まりません。そのため、実務では「会社について○○であることを保証する」と表明保証を書き、違反したときの補償を別の条項で定める組み立てが広く使われています。この組み立てなら、株式の不適合と構成できるかどうかに左右されずに請求の根拠を置けます。株式譲渡そのものの手続は株式譲渡の手続を、譲る対象の特定は譲渡するもの・しないものの決め方を参照してください。

商法526条を「適用しない」とする書き方の意味

譲渡契約書には、「商法第526条の規定は適用しない」と一行だけ書かれていることがあります。唐突に見える条項ですが、意味を押さえておくと、書くべきか削るべきかを判断できます。

商法526条は、商人間の売買で、買主が目的物を受領したときの検査と通知を定めています。買主は遅滞なく目的物を検査し、種類・品質・数量が契約に適合しないことを発見したときは、直ちに売主へ通知しなければ、追完・減額・損害賠償・解除を求められません。直ちに発見できない不適合があっても、受領から6箇月以内に発見して通知する必要があります。売主が不適合を知っていた場合には適用されません。民法566条の「知った時から1年」と比べると、はるかに短く、買主にとっては厳しい仕組みです。

ここで注意したいのは、526条は「商人間の売買」の「目的物の受領」を前提にした規定だという点です。事業の全部を一括して移す取引や、株式を譲る取引に、この条文がそのまま当てはまるのかは、譲る対象や契約の組み立てによって判断が分かれうるところです。当てはまるかどうかが読み取りにくい状況では、契約書で「当事者間では526条の検査・通知の規定によらず、本契約の定めによる」と明示しておくと、検査と通知の期限をめぐる争いの種を減らせます。買主にとっては期間が短くなる危険を避けられ、売主にとっては、契約で定めた請求期間だけが問題になるという見通しが立ちます。

ただし、526条を排除するだけでは足りません。排除したあとに残るのは民法566条の通知期間ですから、契約として「結局いつまでなら請求できるのか」を、補償の請求期間の条項に書き込みます。526条の排除と請求期間の条項は、一対で考えるものです。

書き方の例(一般的な例) 商法526条と請求期間の書き方

検査・通知の規定

よくある書き方「商法第526条は適用しない。」の一文だけを置く。
整えた書き方「商法第526条の規定によらず、買主は、本契約に基づく請求を、第○条に定める請求期間内に書面で通知することにより行うことができる。」と、請求期間の条項に結びつける。

理由排除しただけでは、民法566条の1年が残り、別の期間が併存して見えるため。契約の請求期間と一本化する。

通知の内容

よくある書き方「速やかに通知する」とのみ書く。
整えた書き方「不適合または違反の内容、根拠となる事実、請求する損害の見込額を、わかる範囲で記載した書面で通知する」と定める。

理由通知の中身が決まっていないと、通知をしたかどうか自体が争いになるため。

見つかった時期

よくある書き方引渡しから一定期間のみ請求可能とする。
整えた書き方「保証違反の請求は、クロージング日から○か月以内、ただし故意または重大な過失による違反には期間の制限を適用しない」と区別する。

理由隠された事実まで短い期間で打ち切ると、572条の趣旨とずれ、買主にとって過酷になるため。

損害の範囲:補償の対象を「実際に払ったお金」にするか、「逸失利益」まで広げるか

債務不履行による損害賠償は、民法415条が定めます。債務者が債務の本旨に従った履行をしないときに、債権者はこれによって生じた損害の賠償を請求できる。ただし、契約その他の債務の発生原因と取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、請求できません。そして、賠償の範囲は民法416条で、通常生ずべき損害が原則とされ、特別の事情によって生じた損害は、当事者がその事情を予見すべきであったときに限って請求できます。

この二つの条文を土台にして、契約では、損害の範囲を次のような観点で切り分けることがよくあります。

  • 直接の損害:保証違反によって買主が実際に支払うことになった金額(債務の弁済額、解決のために支払った金額、是正や調査のために実際に要した費用など)。補償の中心はこの部分です。
  • 間接の損害・逸失利益:違反があったために得られなかった利益、取引先を失ったことによる将来の売上減など。算定が難しく、金額が大きくなりやすいため、契約で「含む」「含まない」を明示するのが通常です。
  • 評判や信用の損害:証明が難しく、範囲が際限なく広がりかねないため、補償の対象から外す設計が多く見られます。
  • 買主が負担する対応の費用:違反を調べる費用、第三者との交渉の費用、書類の取り寄せの費用など。実額で補償に含めるのか、上限を設けるのかを決めます。
  • 価格の減額で処理する部分:代金そのものを調整して清算する方法をとるなら、損害賠償としての補償と重複して請求しない、という調整を書いておきます。

売主の側から見ると、補償が「あらゆる損害」に及ぶ書き方は、代金を超える負担を負いうる危険をはらみます。買主の側から見ると、「直接の損害に限る」としてしまうと、保証違反によって事業の収益力が落ちた場合に埋め合わせが受けられません。どちらに寄せるかは、取引の力関係と代金の水準で決まる事柄ですが、決めないで曖昧にしておく選択肢が紛争になりやすいことは共通しています。

書き方の例補償の範囲の条項(一般的な例)

  1. 売主は、買主に対し、売主の表明保証が真実または正確でなかったこと、または売主が本契約に違反したことにより買主が被った損害、損失および費用(以下「損害等」という。)を補償する。
  2. 前項の損害等には、買主が現実に支払った金額、第三者からの請求に対応するために要した合理的な費用、および違反を是正するために要した合理的な費用を含み、間接損害、逸失利益および信用の毀損による損害は含まない。ただし、売主の故意または重大な過失による違反の場合は、この限りでない。
  3. 買主は、損害等の発生を知ったときは、遅滞なく売主に対して書面で通知し、売主の求めに応じて、損害を拡大させないために合理的な措置をとる。

「現実に支払った金額」と「合理的な費用」に限る書き方は、売主側に有利です。買主側の立場では、間接損害を含めるか、または一定の範囲の逸失利益を含める修正がよく検討されます。

賠償額の予定という方法もあります。民法420条は、当事者は債務不履行について損害賠償の額を予定することができ、違約金は賠償額の予定と推定される、と定めています。たとえば「保証違反があったときは、違反の内容にかかわらず代金の○%に相当する額を支払う」と決めておくと、損害の証明が要らなくなります。一方で、実際の損害がそれより大きくても、原則として予定した額で決まります。証明が難しい種類の違反(守秘や競業など)に限って賠償額を予定する、という使い分けが現実的です。

上限・最低額・免責額・請求期間:数字を置く場所と置き方

補償に数字を入れるときは、四つの数字を別々に考えます。金額の上限、請求の最低額(これに満たない個別の請求は対象にしない)、免責額(累計がこの額を超えるまで補償しない)、そして請求期間です。数字そのものは取引ごとに違うため、ここでは「どこにどう置くか」に絞って整理します。

補償に置く数字の種類と考え方

種類役割売主側の見方買主側の見方
上限(キャップ)補償の総額に天井を置く。代金の額を基準にすることが多い。代金の範囲内に収まるので、負担の見通しが立つ。代金を超える損害が出ても補償されない。基本事項の違反は上限の外に出すことが多い。
最低額(デミニミス)個々の請求がこの額に満たなければ、請求の対象外とする。少額の請求を相手にせずに済む。小さな違反が積み上がっても補償されない危険がある。
免責額(バスケット)請求の合計がこの額を超えた時点から補償する(超えた分のみか、全額かは書き分ける)。一定額までは自分で負担しなくて済む。免責額までの損害は買主が負担することになる。
請求期間補償の請求をする通知を、いつまでにしなければならないか。期間が過ぎれば責任から解放される。問題が見つかるまでに時間がかかる事項(債務、紛争、行政手続など)は、期間を長くしたい。

上限は、一律ではなく、事項ごとに分けるのが実務での整え方です。たとえば、会社や事業を譲り渡す権限があること、譲る資産の所有権や株式の帰属は、取引の根本にあたる事項ですから、これに違反したときは代金の全額までを補償の対象とする。一方、事業の状況に関する一般的な保証の違反は、代金の一定割合を上限にする。このように段階を作ると、売主にとっても買主にとっても受け入れやすくなります。

請求期間も事項ごとに変えます。一般的な保証は比較的短く、債務や紛争に関する保証は、それが見つかるまで時間がかかるので長めにします。ただし、ここで民法の時効の考え方を押さえておく必要があります。債権の消滅時効は、民法166条1項で、債権者が権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使できる時から10年とされています。補償を求める権利も、契約に基づく債権ですから、この時効にかかります。契約で請求期間を決めると、その期間内に通知をしなければ請求できないという、時効とは別の、より短い期間を設けることになります。

契約でこのような期間を決めておくと、買主は期間内に通知をする責任を負い、売主は期間経過後の責任から解放されます。逆に、契約に請求期間を書かなければ、民法の時効や、民法566条の通知期間が適用される範囲が残り、いつまで責任が続くのかが読み取りにくくなります。売主は、将来にわたって責任が残る状態を避けるため、買主は、通知さえしておけば足りる範囲を確保するため、請求期間を明確に書いておくのが通常の整え方です。

書き方の例上限・最低額・請求期間の条項の骨格(一般的な例)

  1. 売主の補償責任の総額は、第○条(基本事項の保証)に基づくものを除き、本契約に定める譲渡代金の額を上限とする。基本事項の保証の違反に基づく補償責任は、譲渡代金の全額を上限とする。
  2. 買主は、1件の請求に係る損害等の額が○円に満たない場合には、その請求をすることができない。また、請求に係る損害等の合計額が○円に満たない間は、売主は補償の責任を負わない。
  3. 買主は、クロージング日から○か月以内に、補償を求める事由および損害等の概要を記載した書面を売主に通知しなければならず、期間内に通知をしなかったときは、補償を求めることができない。ただし、売主の故意または重大な過失による違反については、この限りでない。

○の部分は取引ごとに協議して定める数字です。数字を入れ忘れる、または空欄のまま残る書き方は、署名前に見直します。

故意・重大な過失の除外と、補償の請求手続

上限や期間の制限を置く書き方には、通常、例外が付きます。その代表が、売主の故意または重大な過失による違反です。民法572条は、担保責任を負わない特約をしても、知りながら告げなかった事実については責任を免れないと定めています。この「知りながら告げなかった事実」について特約による免責を認めない考え方を、契約で重大な過失にまで広げて、故意または重大な過失による違反は上限と期間の制限の外に出す、というのが一般的な書き方です。知っていて隠した事実についてまで、上限や短い期間で責任を打ち切ることは、法律の考え方にも合いません。契約の側でも、この場合は上限と期間の制限を外す、と書いておくと、売主も「知っていた事実は、開示書面に書いて開示する」という動機を持ちます。

もう一つ、補償の請求手続を決めておく必要があります。第三者から請求を受けたときに、誰が対応し、いつ売主に知らせ、示談をするには誰の同意が要るのか。この手順が決まっていないと、買主が勝手に第三者と示談をして、その金額を売主に請求する、という場面が起きます。一般には次のような流れを書きます。

補償の請求の流れ(一般的な例)

  1. 1. 発見と通知買主は、問題を知ったら遅滞なく書面で売主に通知する。内容、根拠となる事実、損害の見込みをわかる範囲で記載する。
  2. 2. 協議と確認売主は通知を受けた日から一定の日数以内に、事実関係を確認して、認めるか争うかを回答する。資料の提供や現場の確認に協力する。
  3. 3. 第三者との対応第三者から請求を受けている場合、売主の同意なく示談や承認をしない。売主が自らの費用で対応する選択肢を認める場合もある。
  4. 4. 損害の確定と支払損害額が確定したら、売主は一定の期限までに支払う。争いが解決しないときは、契約の紛争解決の条項に従う。
  5. 5. 重複の調整価格調整などで既に回復した部分は、補償額から差し引く。同じ損害を二重に請求しない。

手順は、買主が不適切な示談をする危険と、売主が通知を無視する危険の両方を抑える働きをします。

起きがちなことと、署名前の確認

最後に、補償条項まわりで契約書によく見られる不備と、署名前に確認しておきたい問いを整理します。

起きがちなこと

  • 表明保証は書いてあるのに、違反したときの補償の条項がなく、損害賠償を求めるには民法の一般的な請求に頼るしかない。
  • 補償の上限だけがあって、故意や重大な過失の例外がないため、隠された事実についても売主が上限までしか責任を負わないことになっている。
  • 請求期間が書かれておらず、民法566条の1年、時効の5年・10年、商法526条の検査・通知のどれが適用されるのかが読み取れない。
  • 最低額や免責額が入っているが、「超えた分のみ」か「全額」かが書かれておらず、計算の方法で争いになる。
  • 損害の範囲に「一切の損害」と書くことで、売主が想定していない間接損害まで補償対象になる、または逆に、買主が回復できない範囲が広がる。
  • 買主が売主に通知しないまま第三者と示談をして、その金額を請求したため、売主が同意していないと反論する。
  • 代金の価格調整で処理した問題を、さらに補償でも請求し、二重に回収しようとして争いになる。

確認の問いと理由署名前に確認したい問いと理由

  1. 補償の対象は、表明保証の違反だけか、義務違反や特定の偶発債務も含むのか。

    表明保証の違反だけを対象にすると、契約上の義務違反や、特定して予想される問題が対象外になり、民法の一般的な請求に任される。

  2. 上限は、代金全額か、一定割合か、事項ごとに変えているか。

    全事項を同じ上限にすると、取引の根本にかかわる違反まで軽い扱いになる、または逆に軽い違反まで重くなる。

  3. 請求期間の起算点は、契約日か、クロージング日か、買主が知った日か。

    起算点が違うと、同じ期間でも実際の長さが変わる。民法566条の起算点(知った時)との関係も確認する。

  4. 故意・重大な過失の場合に、上限と期間の制限を外しているか。

    知っていて隠した事実まで制限の対象にすると、572条の考え方と合わず、条項全体の説得力が落ちる。

  5. 商法526条の扱いと、契約の請求期間とが矛盾していないか。

    526条を排除したうえで、請求期間の条項が一本化されていないと、複数の期間が併存して見える。

  6. 表明保証と補償と、価格調整・解除との役割分担が整理されているか。

    同じ問題が複数の条項に重なると、二重に回収する、あるいはどれにも当てはまらず救済されない、という状態が起きる。

問いの順番は、条項の読み方の順番でもあります。上から順に、根拠、金額、期間、手続を確かめていくと、抜けが見つかります。

補償の条項は、うまくいっている間は誰も読み返さない条項です。問題が出た日に、はじめて契約書の一行一行が意味を持ちます。譲渡の前提条件や引渡し前後の義務の整理はクロージングの前提条件と前後の義務で、譲渡後に問題が出たときの全体の見取り図は譲渡後のトラブルとよくある質問で扱っています。

なお、金額の表記には、税込みか税別かを書き添えます。補償の上限や最低額に消費税が含まれるのかが不明確な場合、数字の読み方そのものが食い違うことになります。税の扱いの説明はここでは行いませんが、数字を書く際に、税込・税別の別だけは明記しておきます。

よくあるご質問

表明保証と補償は、どう違うのですか。

表明保証は、契約日やクロージング日の時点で、一定の事項が真実で正確であることを売主が約束する条項です。補償は、その約束が事実と違っていたときや、契約の義務に違反したときに、買主の被った損害を売主が埋め合わせる条項です。表明保証だけを書いて補償を書かないと、違反があっても、民法の損害賠償や解除など一般的な請求に頼ることになります。

補償の上限は、代金の額にすればよいのですか。

代金の額を上限とするのは広く見られる書き方ですが、一律にする必要はありません。会社や事業を譲り渡す権限、譲る資産や株式の帰属など取引の根本にかかわる事項は代金全額までとし、それ以外の一般的な保証は一定割合までとするなど、事項ごとに分ける整え方がよく使われます。故意や重大な過失による違反は上限の外に出す書き方も一般的です。

補償を請求できる期間は、民法で決まっていますか。

種類・品質の契約不適合については、買主が不適合を知った時から1年以内の通知が必要です(民法566条)。また、債権の消滅時効は、知った時から5年、行使できる時から10年です(民法166条1項)。契約で補償の請求期間を別に定めることができ、実務では、事項ごとに期間を分けて書くことが多くあります。

「商法第526条は適用しない」は書いた方がよいのですか。

526条は、商人間の売買で目的物を受領したときの検査と通知を定め、不適合を直ちに発見できないときも6箇月以内の発見と通知を求める厳しい規定です。譲渡契約に当てはまるかが読み取りにくい場面では、契約で適用関係を明示して、請求期間の条項と一本化しておくと、期間をめぐる争いを減らせます。排除だけで終わらせず、請求期間を書き込みます。

売主が会社を清算してしまうと、補償は受けられませんか。

補償を受ける相手方は契約の当事者である売主ですから、売主が事業を譲渡したあとに会社を清算したり、代金を使い切ったりすると、回収が難しくなります。契約では、代金の一部を一定期間留保する、売主の代表者などが連帯して責任を負う、譲渡後の一定期間は売主が存続する、といった手当てを検討します。どの方法を使うかは取引ごとに異なります。

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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、譲渡の対象、会社の形態、定款の定め、取引先との契約の内容によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や取引を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 中小企業庁 / 個人情報保護委員会 / 法務省

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