契約・賃貸借・許認可・個人データの引継ぎ

事業を譲り受けても、取引先との契約も店舗の賃借権も許可も顧客情報も、自動では移りません。何を誰の承諾で、どの手続で移すのかを、条文で確認して契約書に書く方法を整理します。

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要点:契約上の地位は相手方の承諾(民法539条の2)、賃借権は貸主の承諾(612条)、許可は業種ごとの承継・承認・認可または新規取得、顧客データは事業の承継に伴う提供(個人情報保護法27条5項2号)と利用目的の制限(18条2項)で整理します。

このページの要点

  • 事業譲渡は個別の承継、株式譲渡は会社が変わらないという違いを前提にする
  • 契約上の地位と賃借権は相手方の承諾を前提条件にする
  • 許可は「申請」でなく承継の届出・承認・認可・新規取得の完了を条件にする
  • 顧客データは従前の利用目的の範囲で使い、承継の対象と方法を別紙で特定する

結論:契約も許可も個人データも、「自動では移らない」ものとして、移す方法を契約書に書く

事業を譲り受けたら、これまでの取引先との契約も、店舗の賃貸借も、営業の許可も、お客様の情報も、そのまま付いてくる。そう考えている方は少なくありません。しかし、事業譲渡では、これらは自動では移りません。事業譲渡は、譲る資産、契約、債務、従業員を一つずつ特定して移す取引であり、それぞれの移し方が法律で決まっているからです。契約の相手方の承諾が要るもの、行政庁の承認や届出が要るもの、本人への配慮が要るもの、と性格が分かれます。

一方、株式譲渡では事情が違います。会社そのものは変わらず、株主だけが入れ替わりますから、会社が結んでいる契約や持っている許可は、原則としてそのまま会社に残ります。ただし、契約の中に、会社の支配権が変わったときに通知や解除を認める定めがあれば、株主の交代が契約の相手方の権利を動かします。この点は将来のM&Aに備える条項で整理しています。

このページでは、事業を移すときに「何を、誰の承諾で、どの手続で」移すのかを、契約上の地位、債権、賃借権、許認可、個人データ、従業員の順に整理します。個別の業種の許可申請の手続は扱いません。契約書に「承継の方法」をどう書くか、という観点に絞ります。譲渡の形の違いは事業譲渡と株式譲渡の違いで、会社法の手続は会社法の事業譲渡の手続で整理しています。

承継の仕組みの比較(何が、どのように移るか)

移るもの事業譲渡の場合株式譲渡の場合合併・会社分割の場合
取引先との契約契約上の地位の移転に、相手方の承諾が必要(民法539条の2)会社が契約の当事者のまま残る。支配権の変更を定める条項があれば、その定めによる合併は消滅会社の権利義務を包括的に承継(会社法750条1項)。分割は契約の定めに従って承継(同759条1項)
店舗などの賃借権賃貸人の承諾が必要(民法612条)賃借人は会社のまま。支配権変更の定めや信頼関係の変化に注意包括承継または分割契約の定めによる承継。賃貸人との関係は契約で確認
営業の許可業種により、承継の届出、承認、認可、または新規の取得許可を受けた会社が変わらないため、原則として許可はそのまま。役員変更等の届出が生じる場合あり業種により、承継の規定が置かれている場合がある
お客様の個人データ事業の承継に伴う提供は第三者提供の制限の例外(個人情報保護法27条5項2号)。利用目的の制限は引き継がれる(同法18条2項)会社が保有を続けるため、データの移転自体は生じない事業の承継に伴う提供の扱いに含まれる
従業員との雇用契約使用者の地位の譲渡に労働者の承諾が必要(民法625条1項)雇用主は会社のまま変わらない包括承継または分割契約の定めによる

表のとおり、事業譲渡は「個別に承継する」ため、移す方法を契約書に書かなければ、移らないまま残るものが出ます。以下、項目ごとに見ていきます。

契約上の地位と債権:相手方の承諾が要るもの、要らないもの

取引先との継続的な契約を事業譲渡で移すとき、法律上の言葉では「契約上の地位の移転」となります。民法539条の2は、契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合に、契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位がその第三者に移転する、と定めています。つまり、譲渡人と譲受人の間で合意するだけでは足りず、取引先の承諾が要ります。

契約上の地位には、権利(代金を受け取る、サービスを受ける)と義務(代金を支払う、サービスを提供する)が束になって含まれています。これに対して、権利だけを移す債権譲渡は、原則として債務者の承諾がなくても行えます。民法466条1項は、債権は譲り渡すことができるとし、同条2項は、当事者が譲渡を禁止したり制限したりする意思表示(譲渡制限の意思表示)をしていても、債権の譲渡は効力を妨げられない、と定めます。ただし、同条3項により、譲渡制限の意思表示があることを知り、または重大な過失によって知らなかった譲受人に対しては、債務者は履行を拒むことができます。譲渡の対抗要件は、譲渡人からの債務者への通知か、債務者の承諾です(民法467条1項)。

債務、つまり義務の側を移すには、別の仕組みが必要です。債務引受は、債権者との関係で、譲渡会社が債務を免れるのか(免責的債務引受)、譲渡会社も引き続き債務を負うのか(併存的債務引受)を決めることになります。この選択は、売主・買主の双方にとって大きな意味を持ちますので、譲る対象の特定と一体で考える必要があります。詳しくは譲渡するもの・しないものの決め方で扱っています。

書き方の例(一般的な例) 契約の引継ぎの書き方

取引先との契約

よくある書き方売主は、本事業に関する一切の契約上の地位を買主に譲渡する。
整えた書き方売主は、別紙の契約目録に掲げる契約について、各契約の相手方の書面による承諾を得て、クロージング日に契約上の地位を買主に移転する。承諾が得られない契約は、移転の対象から除く。

理由「一切」では、承諾が要る契約と要らない契約、移すものと移さないものが区別できない。承諾が得られなかったときの扱いも決める。

承諾の取得

よくある書き方売主は、必要な承諾を得るよう努める。
整えた書き方売主は、クロージング日の○営業日前までに、各相手方の承諾書の写しを買主に交付する。主要な取引先の承諾を前提条件とする。

理由誰が、いつまでに、どの形式で取得するのかを決めないと、条件が満たされたか判断できない。

承諾が得られない場合

よくある書き方特に規定しない。
整えた書き方承諾が得られない契約については、承諾が得られるまでの間、売主が買主のために履行を継続し、得られた利益を買主に引き渡す(または代金を調整する)。

理由移転できない契約を、その間どう扱うのか。履行の代行の条項は、相手方の契約の定めとの関係も確認する。

店舗などの賃借権:貸主の承諾と、敷金・保証金の扱い

店舗や事務所を借りて営んでいた事業を譲るとき、通常、賃借権を一緒に移すことになります。民法612条1項は、賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡し、または賃借物を転貸することができない、と定めます。承諾を得ずに第三者に使用または収益をさせたときは、賃貸人は契約の解除をすることができます(同条2項)。事業譲渡で店舗を引き継ぐ場合、貸主の承諾は、前提条件の中でも特に重要な一つです。

貸主の承諾を得るときに、確認しておくことは次のとおりです。第一に、承諾の範囲です。賃借権の譲渡を承諾するだけなのか、賃料や使用目的の変更を伴うのか、承諾に条件(保証人の差し入れ、新しい契約書の作成など)が付くのか。第二に、敷金や保証金の扱いです。民法622条の2第1項は、賃借人が適法に賃借権を譲り渡したときは、賃貸人は、受け取った敷金の額から賃借人の債務の額を控除した残額を返還しなければならない、と定めています。つまり、賃借権が適法に譲渡されると、敷金は元の賃借人に返還されるのが原則の形です。買主が敷金に相当する金額を貸主に新たに差し入れるのか、売主に返還された敷金相当額を買主との間でどう調整するのかは、契約で決めておく事項です。保証金の権利を移す場合の個人事業の書き方は個人事業・店舗の譲渡契約書で扱っています。

第三に、原状回復の義務の引継ぎです。賃貸借が終わるときの原状回復の費用は、誰が負担するのか。賃借人が替わる時点で、これまでの使用による傷みや、過去の改装の撤去義務まで買主が引き継ぐのか、売主が精算するのか。ここが曖昧だと、将来の退去の際に争いになります。承諾書または新しい賃貸借契約書の中で、原状回復の範囲を明確にしておくのが通常の整え方です。

営業の許認可:承継の仕組みは業種ごとに違い、新規取得になる場合もある

営業に許可や認可が必要な事業を譲るときは、その許可が譲受人に移るのか、移らないのかを、業種ごとの法律で確認する必要があります。法律の作りは大きく三つに分かれます。一つ目は、譲渡と同時に地位が移り、届出をすれば足りるもの。二つ目は、あらかじめ行政庁の承認や認可を受けておくと地位を承継できるもの。三つ目は、承継の規定がなく、譲受人が自ら新たに許可を取る必要があるものです。以下は、法令の読み方の例として、条文を確認したものを紹介します。

許可の承継に関する条文の例

食品衛生法56条

許可を受けた営業者が営業を譲渡したときは、譲り受けた者は許可営業者の地位を承継する。承継した者は、遅滞なく、その事実を証する書面を添えて、都道府県知事に届け出なければならない。

契約書では承継の事実を証する書面(契約書の写しなど)が要るため、契約書に承継の旨を明記しておく

旅館業法3条の2

許可を受けて旅館業を営む者が営業を譲渡する場合に、譲渡人と譲受人が都道府県知事の承認を受けたときは、譲受人は営業者の地位を承継する。

契約書では承認を受ける前に譲渡を実行しないよう、承認の取得を前提条件にする

建設業法17条の2

建設業者が許可に係る建設業の全部を譲渡する場合に、譲渡人と譲受人が、あらかじめ国土交通大臣または都道府県知事の認可を受けたときは、譲受人は建設業者としての地位を承継する。

契約書では認可は事前に受ける必要があるため、スケジュールに認可の期間を織り込む

上の三つは、仕組みの違いを示す例です。ほかの営業の種類については、承継の規定があるか、新規の取得になるかを、条文と所管官庁の資料で確認する必要があります。承継の規定が見当たらない営業では、譲受人が自ら許可を取得するのが基本になります。

契約書に書く内容は、許可の種類によって変わりません。次の点を押さえておきます。

  • 承継の方法を書く:承継の届出で足りるのか、承認や認可を事前に受けるのか、新規に取得するのか。契約書または別紙に、方法を明記します。
  • 前提条件にする:承認、認可、または新規許可の取得が済むまで、事業の引渡しや代金の支払をしない、または一部を留保する書き方です。「申請をしたこと」でなく、「承認または許可を受けたこと」を条件にします(クロージングの前提条件と前後の義務を参照)。
  • 取得までの営業の扱い:新規の許可が必要な場合に、許可が下りるまでの間、買主が営業を始められるのか、売主が営業を続けるのか。この点は、所管官庁の資料で確認し、無許可営業にならないよう契約で手当てします。
  • 取得できなかったときの扱い:許可が取れなければ、契約を解除して代金を返還する、代金を減額する、期限を延長する、といった道筋を書きます。
  • 協力義務:売主は、申請に必要な書類(廃業に関する書類、施設の図面、従前の許可証の写しなど)の提供や、行政庁への説明に協力する義務を負う、と書いておきます。

許可の申請や届出の手続そのものは、業種ごとに必要書類や審査の内容が違うため、このガイドでは立ち入りません。契約書の側で、どの方法で承継するのか、条件が満たされなかったときにどうするのか、を書いておく、という点を押さえてください。

お客様の個人データ:事業の承継に伴う提供と、利用目的の制限

顧客名簿、会員情報、予約の履歴、取引先の連絡先などは、事業の価値の大きな部分を占めます。これらに含まれる個人データを、事業譲渡で買主に渡すことは、個人情報保護法の対象になります。個人情報保護法27条1項は、個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない、と定めます。ただし、同条5項2号により、「合併その他の事由による事業の承継に伴って個人データが提供される場合」は、提供を受ける者が第三者に該当しないとされ、本人の同意なく引き継ぐことができます。

ここで気をつけたいのは、買主側の義務です。個人情報保護法18条2項は、合併その他の事由により他の個人情報取扱事業者から事業を承継することに伴って個人情報を取得した場合は、あらかじめ本人の同意を得ないで、承継前における当該個人情報の利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない、と定めています。つまり、顧客情報を引き継いだ買主は、売主がもともと本人に示していた利用目的の範囲で使う必要があります。引き継いだ名簿を、新しい販売の宣伝や、まったく別の事業の勧誘に使うことは、本人の同意がなければできません。

書き方の例個人データの引継ぎの条項(一般的な例)

  1. 売主は、クロージング日に、別紙に掲げる範囲の個人データを、本事業の承継に伴って買主に提供する。
  2. 買主は、前項により提供を受けた個人データを、売主が従前に本人に通知または公表していた利用目的の達成に必要な範囲で取り扱い、本人の同意なくこれを超えて取り扱わない。
  3. 買主は、前項の個人データについて、個人情報の保護に関する法令に従い、安全管理のために必要かつ適切な措置を講じる。
  4. 売主は、本契約の締結前の検討に際して、買主に個人データを開示するときは、本人が識別できない形に加工するなど、必要な範囲に限る。

最後の条項は、検討や調査の段階で、顧客名簿そのものを開示する場面を想定した書き方です。検討段階の開示が「事業の承継に伴う提供」にあたるかどうかは、個人情報保護委員会の資料などで確認が必要です。

株式譲渡では、データを保有する会社が変わらないため、データの移転そのものは生じません。ただし、株式を取得した買主(親会社など)が、対象会社の顧客情報を自社に移して使おうとするときは、別途、第三者提供や共同利用の整理が必要になります。契約書には、データを会社の中にとどめるのか、どの範囲で買主側と共有するのかを書いておくと、将来の食い違いを防げます。

承諾を取りにいく順序と、求め方の組み立て

承諾の取得は、書き方以上に、進め方で結果が変わります。承諾を求める相手方は、貸主、主要な取引先、行政庁、場合によっては金融機関など、多岐にわたります。それぞれの相手方にとって、事業の譲渡は、自分の取引相手が替わる出来事です。信頼している相手が替わることで、条件の見直しを求められる可能性もあります。そのため、承諾を取りにいく前に、順序と内容を整理しておく必要があります。

承諾取得の進め方(一般的な例)

  1. 1. 承諾が要る相手の洗い出し契約目録、賃貸借契約、許可証、会員規約などを確認し、承諾・届出・承認が必要なものを一覧にする。契約書の「譲渡禁止」「地位の承継」の条項を一件ずつ読む。
  2. 2. 影響の大きさで優先順位をつける事業の継続に不可欠な貸主、主要な取引先、許可の行政庁を先にする。代替の効く小口の取引は後でよい。
  3. 3. 秘密保持との調整譲渡の検討は秘密情報であるため、いつ、誰に、何を伝えるかを、買主と売主で合意する。秘密保持の契約に、承諾取得のための開示を例外として書いておく。
  4. 4. 求める内容を揃える譲受人の概要、譲渡の時期、契約条件が変わるのか変わらないのか、承諾の期限を、書面で伝える。相手方ごとに説明が食い違わないようにする。
  5. 5. 承諾の書面を保管する口頭の了解でなく、承諾書または新しい契約書を取得し、写しをクロージングの書類に加える。条件付きの承諾なら、その条件を契約書の前提条件に反映する。

承諾の取得に失敗したときの道筋(対象から除く、代金を調整する、解除する)も、契約日の時点で決めておきます。

確認の問いと理由承諾を求めるときに確認しておきたい問いと理由

  1. 相手方の契約に、譲渡の禁止や事前の承諾を求める条項があるか。

    条項がある場合、承諾なしに移すと契約違反となり、解除や損害賠償の理由になりうる。条項が見当たらなくても、民法539条の2により地位の移転には承諾が要る。

  2. 承諾に条件(保証人、保証金の積み増し、条件変更)が付くか。

    条件が付くと、買主の負担が変わる。価格や前提条件に反映させる。

  3. 承諾までに要する期間はどれくらいか。

    行政庁の承認や認可は、期間が長くなることがある。クロージング日と最終期限の設定に影響する。

  4. 承諾書には何を書いてもらうか。

    契約の特定、譲受人の名前、承諾の日付、既存の債権債務の扱い(過去の未払や紛争を含むか)を書いてもらうと、後日の食い違いを防げる。

承諾を取る段階で、相手方から譲受人の信用を確認する資料(決算書、事業計画、保証人など)を求められることがあります。買主は、どこまで開示するのかを事前に決め、売主が代わりに説明する場合の範囲を合意しておきます。開示した情報の取扱いは、秘密保持の契約に従います。

従業員との契約:承諾を前提に、契約書では「承継の方法」を書く

事業譲渡で従業員を引き継ぐ場合、雇用契約は自動では移りません。民法625条1項は、使用者は労働者の承諾を得なければ、その権利を第三者に譲り渡すことができない、と定めています。したがって、買主が従業員を引き継ぐには、従業員が買主との間で、新たに雇用契約を結ぶのか、元の契約上の地位の移転を承諾するのかを決めることになります。

契約書に書く範囲は、承継の方法にとどめます。具体的には、承継の対象となる従業員を別紙で特定すること、各従業員の承諾(または新たな契約の締結)を前提条件にすること、承諾が得られなかった従業員は対象から除くこと、です。労働条件の内容など雇用に関する事項は、このガイドでは扱いません。

署名前に確認したいこと(承継の方法)

  • 取引先との契約について、移す契約の目録と、各契約の相手方の承諾の取得方法・期限が決まっている。
  • 賃借権の譲渡に、貸主の書面の承諾を前提条件としており、敷金・保証金と原状回復の扱いも書かれている。
  • 営業の許可について、承継の届出・承認・認可・新規取得のどれになるのかを確認し、「申請」でなく「取得・承認」を条件にしている。
  • 個人データの引継ぎの範囲と、買主が従前の利用目的の範囲で使うことが書かれている。
  • 従業員の承継の対象と、各自の承諾を得る方法が別紙で特定されている。
  • 承諾や許可が得られなかったときの扱い(移転対象から除外、解除、代金の調整)が書かれている。

起きがちなこと

  • 「一切の契約上の地位を移転する」と書いたが、相手方の承諾が得られず、実際には移っていない契約が多数ある。
  • 貸主の承諾を得ないまま店舗の使用を引き継ぎ、後になって賃貸借契約の解除を主張される(民法612条2項)。
  • 許可の「申請」を条件にしたため、承認が下りないまま代金の支払が進み、買主が営業を始められない。
  • 引き継いだ顧客名簿を、新しい販売の宣伝に使ったところ、本人から利用目的の範囲外だと指摘される。
  • 従業員が引き継ぎに応じず、事業の運営に必要な人員が確保できなかった。
  • 株式譲渡で会社の契約はそのまま残ると考えていたが、支配権の変更を理由に、取引先から契約の解除を通知される。

承継の方法は、契約書の本文と別紙で決め、条件の充足はクロージングの前提条件と前後の義務で確認します。譲渡の後に、想定外の債務や契約の問題が出たときの整理は、譲渡後のトラブルとよくある質問で扱っています。

よくあるご質問

事業譲渡をすると、取引先との契約は自動的に買主に移りますか。

移りません。契約上の地位の移転には、契約の相手方の承諾が必要です(民法539条の2)。債権だけを移す債権譲渡は、原則として債務者の承諾がなくても効力を持ちますが(民法466条2項)、譲渡制限の意思表示があれば債務者が履行を拒める場合があります。契約書には、移す契約の目録と、承諾の取得方法を書きます。

店舗の賃借権を移すとき、貸主の承諾は必須ですか。

民法612条1項により、賃借人は賃貸人の承諾を得なければ賃借権を譲り渡すことができず、承諾なく第三者に使用させたときは、賃貸人は契約の解除をすることができます(同条2項)。事業譲渡で店舗を引き継ぐ場合は、貸主の書面による承諾を前提条件にするのが通常です。

営業の許可は、事業を買えば引き継げますか。

業種によって異なります。届出で承継できるもの(食品衛生法56条)、行政庁の承認を受けて承継できるもの(旅館業法3条の2)、事前の認可を受けて承継できるもの(建設業法17条の2)があり、承継の規定が見当たらない営業では、買主が自ら新たに許可を取得するのが基本です。個別の営業については、条文と所管官庁の資料で確認が必要です。

顧客名簿を買主に渡すのに、お客様の同意は要りますか。

事業の承継に伴って個人データが提供される場合は、提供を受ける者が第三者に該当しないとされ、本人の同意なく引き継ぐことができます(個人情報保護法27条5項2号)。ただし、買主は承継前の利用目的の達成に必要な範囲を超えて取り扱うことができません(同法18条2項)。目的外で使うには、本人の同意が必要です。

従業員は、事業譲渡で自動的に買主の従業員になりますか。

自動では移りません。民法625条1項により、使用者の権利を第三者に譲り渡すには、労働者の承諾が必要です。契約書では、承継の対象となる従業員を別紙で特定し、各自の承諾または新たな契約の締結を前提条件にします。労働条件の中身そのものは、このガイドでは扱いません。

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