個人事業・店舗の譲渡契約書:会社法が使えない譲渡の根拠、屋号、内装備品、保証金、賃貸借の承諾

個人の事業の譲渡には、会社法の事業譲渡の規定は使えません。民法の売買と商法の営業譲渡の規定、店舗の賃貸借の承諾を組み合わせて、譲渡物、代金、引渡し、競業までを契約書に書き込みます。

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「一切のもの」と包括的に書くと、売主の私物や賃貸人の所有物まで引き渡す義務があるのかが争いになります。譲る物は目録で特定します。

このページの要点

  • 個人事業は会社法の外。民法の売買(555条)と、売主が商人であれば商法15条〜18条の2の営業譲渡の規定が働く。
  • 屋号は営業とともにする場合に限り譲渡できる(商法15条1項)。売上や顧客は物でなく関係なので、基準日と引継ぎの協力で書く。
  • 賃借権の譲渡は賃貸人の承諾が必要(民法612条)。保証金は賃借権の適法な譲渡で売主に返還される筋(民法622条の2第1項2号)なので、三者で扱いを決める。
  • 代金を失う条項は、違約金か賠償額の予定にあたる(民法420条)。解除の要件と返還の範囲を具体的に書く。

結論:会社を介さない譲渡は、民法の売買と、いくつかの契約の組合せで書く

個人で営んできた店や事業を、別の人に譲る。このとき、会社法の「事業譲渡」の規定(株主総会の承認、反対株主の買取請求など)は使いません。会社ではない個人には、承認すべき株主がいないからです。代わりに、契約書の根拠になるのは、民法の売買の規定と、商人の営業の譲渡に関する商法の規定、そして店舗の賃貸借や従業員、取引先との個別の契約です。

個人の事業の譲渡は、一つの契約書で、複数の種類の取引を束ねたものです。内装や備品の売買、屋号の譲渡、店舗の賃借権の移転、保証金に関する権利の扱い、引渡しと原状回復の分担、そして譲渡後の競業。これらを「事業譲渡契約書」という一つの題でまとめますが、実際に効力が生じる根拠や、必要な第三者の承諾は、項目ごとに違います。会社法が使えない分、契約書に書くべきことが多くなる、と考えるとよいでしょう。

このページは、店舗などの個人事業を譲る人と、譲り受ける人の両方を想定しています。会社が売主や買主になる事業譲渡は会社法の事業譲渡の手続のページ、株式を売る取引は株式譲渡の手続のページ、取引全体の見取り図は事業譲渡と株式譲渡の違いのページで扱います。

根拠になる法律:民法の売買と、商法の営業譲渡の規定

個人の事業の譲渡では、まず、民法の売買の規定が基本になります。売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がその代金を支払うことを約することによって、効力を生じます(民法555条)。この規定は、売買以外の有償契約にも、性質が許す限り準用されます(民法559条)。事業の譲渡は、複数の財産や権利をまとめて移す有償契約なので、売買の規定が出発点になります。

譲渡する人が商法上の「商人」である場合は、商法の営業譲渡に関する規定も働きます。商人とは、自己の名をもって商行為をすることを業とする者です(商法4条1項)。店舗その他これに類似する設備によって物品を販売することを業とする者は、商行為を行うことを業としない者であっても商人とみなされます(同条2項)。小さな店を営む個人は、多くの場合、商人に当たります。ただし、事業の内容によっては商人に当たらない場合もあり、一概にはいえません。

条文の読み方:商人の営業譲渡に関する規定(商法)

商法15条1項

商号は、営業とともにする場合か、営業を廃止する場合に限り、譲渡できる

契約書では屋号だけを単独で売ることはできない。屋号を譲るときは、営業の譲渡とセットであることを契約書に書く

商法16条1項

営業を譲渡した商人は、別段の意思表示がない限り、同一の市町村と隣接する市町村で、20年間、同一の営業を行ってはならない

契約書では売主が譲渡後に近隣で同じ商売をするかどうかを、契約書で決める。この既定を外すなら特約を書く

商法16条2項、3項

競業禁止の特約の効力は譲渡の日から30年の期間内。不正の競争の目的での競業は常に禁止

契約書では特約の期間は30年を超えて定めても、超過部分は効力がない

商法17条1項、2項

買主が売主の商号を引き続き使うと、買主も売主の営業上の債務を弁済する責任を負う。登記または通知で免れる

契約書では屋号を続けて使うなら、債務を引き受けない旨を第三者に通知するなどの手当てを、契約書の義務として書く

商法18条1項

屋号を使わなくても、債務を引き受ける旨の広告をしたら、買主に弁済を請求できる

契約書では債務を引き受ける旨を、取引先に広く告知しないよう注意する

商法16条から18条の2までの規定は、会社法21条から23条の2までの規定と同じ内容です。会社が売主の場合は会社法、個人の商人が売主の場合は商法が、それぞれ適用されます。会社が商人に事業を譲渡する場合などは、会社法24条により、両方の規定が組み合わされて適用されます。

ごく小規模な商人については、商法の一部の規定が適用されません。営業のために使用する財産の価額が法務省令で定める金額を超えない商人を、小商人といい、この金額は50万円とされています(商法7条、商法施行規則3条2項)。財産の価額は、最終の営業年度の貸借対照表に計上した額(最終の営業年度がない場合は、開業時の貸借対照表の額)で判断します(同条1項)。小商人には、商号の譲渡の登記による対抗の規定(商法15条2項)や、商号続用の免責の登記の規定(商法17条2項前段)などが適用されません。もっとも、競業禁止の規定(商法16条)は、小商人にも適用されます。

契約書では、売主がこれらの規定に当たるかどうかを、事前に条文で確認したうえで、「競業禁止の既定を外す」「屋号を続けて使う」といった選択を、条項として書き分けます。契約の内容は、法令の制限内で当事者が自由に決められます(民法521条2項)。条文の既定はあくまで「別段の意思表示がない場合」の定めなので、特約を書けば、それが優先します。

譲るものの書き方:屋号、内装、備品、収益、「その他一切」

店舗の譲渡契約書では、内装、備品、屋号、収益や顧客に関する事項、そして包括的な「その他一切」といった項目が、譲渡物として並べられがちです。この並べ方は一見わかりやすいのですが、項目ごとに、法的な意味と、引渡しの方法が違います。

書き方の例(一般的な例) 譲渡物の書き方

内装・備品

よくある書き方「内装」「什器備品一式」
整えた書き方「別紙の目録記載の什器・備品・設備(以下「本備品等」という。)」。内装は、造作の範囲を図面や写真で特定し、賃貸人の所有物と区別する

理由「内装」は、賃借した建物に付けた造作で、所有権が誰にあるのか、原状回復の対象かで扱いが変わる。目録と写真で特定する。リース品や、売主が所有していない物は除外する。

屋号

よくある書き方「店名を引き継ぐ」
整えた書き方「甲が使用してきた屋号○○(以下「本屋号」という。)の使用権を、営業の譲渡とともに乙に移転する。」

理由商号は営業とともにする場合に限り譲渡できる(商法15条1項)。屋号だけを売る形にならないようにする。商標登録の有無も確認する。

収益

よくある書き方「営業上の収益」
整えた書き方「効力発生日以降に発生した売上は乙に帰属し、効力発生日の前日までに発生した売上および売掛金は、甲に帰属する。」

理由「収益」は、過去の売上金なのか、将来の売上見込みなのか、不明。基準日を決めて、どちらに帰属するかを書く。

顧客関係

よくある書き方書かない、または「顧客」
整えた書き方「甲は、引渡日までに、顧客に対し、本事業が乙に承継される旨を案内し、乙への引継ぎに協力する。顧客情報は、個人情報保護法に従い、利用目的の範囲内で乙に提供する。」

理由顧客は物ではなく、関係である。引継ぎの協力と、顧客情報の提供の根拠を書く。

包括条項

よくある書き方「その他営業に関する一切のもの」
整えた書き方「前各号に掲げるもののほか、別紙に記載した物。別紙に記載のないものは、本契約の対象に含まれない。」

理由「その他一切のもの」では、何が含まれるのか、争いの種になる。包括条項は、列挙したものに限定するか、除外を書く。

譲渡物を列挙するときは、本文と別紙の食い違いにも注意します。本文では「備品一式」と書き、別紙の目録には一部の備品しか載せていない、というような状態では、買主は、目録に載っていない備品の引渡しを求めにくくなります。反対に、売主は、「一式」と書いたことで、目録に載せなかった私物まで引き渡す義務があると主張されるかもしれません。本文と別紙のどちらを優先するのかも、契約書に書いておきます。

譲渡する対象には、このほか、電話番号、ホームページや予約サイトのアカウント、SNSのアカウントなど、名義の変更が別に必要なものがあります。これらは譲渡するもの・しないものの決め方のページで詳しく扱います。許認可や営業の届出が必要な業種では、個人に与えられた許可は、買主に自動では移りません。承継の規定がある業種もあれば、買主が新たに取得する必要がある業種もあるため、条文と所管官庁の資料で確認し、契約書の前提条件に書きます(契約・賃貸借・許認可・個人データの引継ぎのページ)。

店舗の賃借権、保証金、賃料の滞納

賃貸人の承諾と、保証金のお金の動き

店舗を譲るとき、最も重要なのが、店舗の賃貸借契約をどうするかです。賃借人は、賃貸人の承諾を得なければ、その賃借権を譲り渡すことができません(民法612条1項)。承諾を得ずに第三者に賃借物を使わせたときは、賃貸人は契約の解除をすることができます(同条2項)。つまり、売主が買主に店舗を引き渡しても、賃貸人の承諾がなければ、買主は店舗を使い続けられないおそれがあります。

賃貸借契約の地位そのものを買主に移すことは、契約上の地位の譲渡にあたります。契約の当事者の一方が、第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合に、契約の相手方がその譲渡を承諾したときに、契約上の地位はその第三者に移転します(民法539条の2)。店舗の賃貸借では、賃貸人の承諾が、地位の移転の効力要件になるのです。

保証金(敷金、預託金、名目は様々です)の扱いも、承諾の内容として決めておきます。民法は、敷金を「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づく債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義しています(民法622条の2第1項)。そのうえで、賃借人が適法に賃借権を譲り渡したときは、賃貸人は、受け取っていた敷金から賃借人の債務を差し引いた残額を、賃借人に返還しなければならないとしています(同項2号)。

この規定の意味は、売主が差し入れていた保証金は、賃借権の譲渡が賃貸人に承諾されたときに、法律上は売主に返還される筋になる、ということです。買主は、売主に代金を支払ってその権利を引き継いだつもりでも、賃貸人との関係では、新たな賃借人として改めて保証金を差し入れる必要が生じることがあります。これを避けるには、売主、買主、賃貸人の三者で、保証金をどう扱うかを合意します。たとえば、賃貸人が売主に保証金を返還して、買主から新たに預かる方法。あるいは、保証金に係る権利と義務を、買主が承継することを、賃貸人が承諾書に書く方法。契約書には、どちらの方法をとるのか、保証金に相当する額を売主と買主の間でどう精算するのかを書きます。

書き方の例賃借権の移転と保証金の条項

  1. 甲は、乙のために、効力発生日までに、本店舗の賃貸人から、甲の賃借人としての地位を乙に移転することについての書面による承諾を取得する。
  2. 前項の承諾書には、次の事項を記載する。(1) 乙が賃借人の地位を承継すること (2) 甲が差し入れた保証金の扱い (3) 甲の賃料債務その他の債務の精算 (4) 甲がその地位から離れること。
  3. 前項(2)の保証金につき、甲から乙に権利を移転する場合、乙は、効力発生日に、甲に対し、本契約で定める金額を支払う。賃貸人が甲に保証金を返還する場合、甲は、乙が賃貸人に保証金を差し入れるために必要な協力をする。
  4. 第1項の承諾を得られなかった場合、乙は、本契約を解除することができる。この場合、甲は、受領済みの代金を直ちに乙に返還する。

第2項(4)の「地位から離れること」は、売主が譲渡後も賃貸人に責任を負い続けるかどうかを左右します。承諾書の文言で確認しておきます。

承諾の取得には、時間がかかることがあります。賃貸人が、買主の信用を確認するために、決算書や身元の資料を求めたり、承諾の条件として、賃料の増額や新たな保証人を求めたりすることもあります。契約書では、承諾が得られなかったとき、あるいは承諾に条件が付いたときに、買主が解除できる期限を決めておきます。これは、クロージングの前提条件のページで扱う前提条件の一つです。

賃料の滞納で代金が戻らない、という条項の限界

店舗の譲渡契約書では、買主が賃料の支払を怠ったときに契約の効力を失わせ、すでに受け取った代金は返さない、という趣旨の条項が考えられます。売主としては、買主が賃料を払わず、店舗の状態が悪くなることへの備えです。しかし、この種の条項には、法律上の限界があります。

第一に、賃料の滞納は、買主と賃貸人の間の賃貸借契約上の問題です。売主と買主の間の譲渡契約の解除の理由に結びつけるには、買主の債務不履行の内容を、譲渡契約の中で定義する必要があります。何日遅れたら、どの程度の滞納額で、売主が何をできるのかが書かれていなければ、「遅延」という一語だけでは解釈が分かれます。

第二に、「代金を返さない」という部分は、実質的には、違約金か損害賠償額の予定にあたります。当事者は、債務の不履行について損害賠償の額を予定することができ、違約金は賠償額の予定と推定されます(民法420条1項、3項)。賠償額の予定は、履行の請求や解除権の行使を妨げません(同条2項)。ただし、予定した額が、実際に生じ得る損害に比べて著しく過大である場合は、公序良俗に反するとして、効力が否定される可能性があります(民法90条)。

第三に、契約を解除した場合、各当事者は原状に復させる義務を負います(民法545条1項)。金銭を返還する場合は、受領の時から利息を付す必要があります(同条2項)。代金を返さない定めは、この原状回復の原則の例外ですが、例外を置くなら、その範囲と根拠を契約書で明確にしておく必要があります。買主が店舗の設備を使い続けたことの対価、売主が受けた損害の範囲を、返さない金額との関係で説明できる形にするのが、争いになりにくい書き方です。

書き方の例(一般的な例) 買主の賃料滞納に備える条項

解除の事由

よくある書き方「乙が賃料の支払を遅れたときは、本契約は効力を失う。」
整えた書き方「乙が賃貸人に対する賃料の支払を、一定の期間にわたって怠り、甲が書面で催告したのに、一定の期間内に支払わない場合、甲は本契約を解除できる。」

理由一回の遅れで解除できる書き方は、買主にとって重すぎ、争いにもなりやすい。催告と期間を入れて、解除の要件を具体化する(民法541条)。

代金の扱い

よくある書き方「受領済みの代金は返還しない。」
整えた書き方「前項により解除された場合、甲は、受領済みの代金から、乙が使用した期間に相当する額と甲に生じた損害の額を控除した残額を、乙に返還する。」

理由全額不返還は、過大な賠償額の予定になるおそれがある。使用期間相当額と損害の範囲に結びつけた精算にする。

売主の協力

よくある書き方書かない。
整えた書き方「甲は、前項の解除の後、乙が店舗を使用していた期間の賃料の支払状況を賃貸人に確認し、乙が賃貸人に負う債務を乙の責任で精算させる。」

理由解除したあとの店舗の返還や、賃貸人への債務の精算を、誰がするのか明確にする。

引渡しと原状回復の線引き

店舗を引き渡すとき、売主は、譲渡物を買主に引き渡し、買主は、その時点での状態で受け取ります。ここで問題になりやすいのが、引渡し後の原状回復の義務です。賃貸借契約が終了して店舗を返還するときの原状回復義務は、本来、賃借人が賃貸人に対して負うもので、譲渡契約の当事者間の問題ではありません。ところが、買主が賃借人の地位を承継した場合、買主は、将来、退去するときの原状回復を、賃貸人に対して負います。

このとき、譲渡契約書に「原状回復は全て買主の負担で行う」と書いてあると、何を指すのかがはっきりしません。買主が引渡し後に付けた造作の撤去だけを指すのか、売主が賃借を始めた時に付けた内装も、買主が撤去しなければならないのか。後者であれば、買主は、自分が付けていない造作の原状回復費用まで、将来引き受けることになります。買主はこの費用を見込んで代金を決める必要があるため、売主が付けた造作の原状回復費用の負担を、誰がどこまで持つのかは、代金の交渉の一部になります。

契約書では、引渡し時の状態を、写真や現況の確認書で記録しておき、その状態を「引渡し時の現状」として、買主が引き継ぐと書く方法があります。また、設備や備品に不具合があったときの責任は、契約不適合責任の規定(民法562条以下)の対象になり得ますが、中古の設備を譲る場合は、現状有姿での引渡しとし、責任を限定する書き方も一般的です。責任の範囲や期間については、補償と責任の上限・請求期間のページで整理します。

引渡しの前後で、誰が何を負うか

売主が負うこと

  • 引渡し日までの賃料、公共料金、従業員への支払などの精算
  • 引渡し日前に生じた債務の履行
  • 賃貸人の承諾の取得に向けた協力
  • 引渡し時の状態の記録の作成への協力
  • 引継ぎ期間の協力(機器の使い方、仕入先、顧客の紹介)

買主が負うこと

  • 引渡し日以降の賃料、公共料金、従業員への支払
  • 賃貸借契約の地位を承継した後の原状回復の義務(賃貸人に対して)
  • 引渡し日以降の営業で生じた債務や責任
  • 引き継いだ許認可・届出の手続
  • 代金の支払

「引渡し日」を何時何分、どの状態で区切るのかを書いておくと、日割り精算や、引渡し日前後のトラブルの責任の所在が明確になります。

契約書の骨格:条項の並べ方

個人の事業の譲渡契約書は、短い書面でも、条項の並べ方によって、読みやすさと抜けにくさが変わります。一例として、次のような順序が考えられます。順序そのものに決まりはありませんが、「契約の目的、対象、対価」から「引渡しと精算」「責任」「その他」へと、取引の時間の流れに沿って並べると、読み落としが減ります。

個人事業・店舗の譲渡契約書の条項の並べ方(一般的な例)

  1. 目的と当事者譲渡の目的、当事者の氏名・住所・屋号、譲渡する事業の特定(店舗の所在地、事業の内容)。
  2. 譲渡物と除外物別紙の目録、本文と別紙の優先関係、譲渡しないもの(私物、リース品、債権債務)。
  3. 対価と支払金額(税込か税別かを明記)、支払日、支払方法、手付の扱い、基準日による調整。
  4. 賃借権・保証金・承諾賃貸人の承諾の取得、保証金の扱い、承諾が得られなかった場合の解除。
  5. 引渡しと引継ぎ引渡し日、引渡し時の状態の確認、引継ぎ協力の期間と内容、屋号やアカウントの名義変更。
  6. 表明と保証、責任売主の表明(所有権、債務、訴訟、許認可、従業員)、責任の範囲と請求期間。
  7. 競業と秘密売主の競業禁止の範囲(期間・地域・業務)、顧客への勧誘の禁止、秘密保持。
  8. 解除と、その他解除の事由、反社会的勢力の排除、管轄の裁判所、協議。

各条項の書き方は、このガイドの各ページで取り上げます。たとえば、競業は競業避止と引継ぎ協力のページ、表明保証は表明保証の書き方のページ、基準日の調整は譲渡対価と価格の調整のページです。

個人の間の契約書で、特に起きやすい形式面の不備もあります。同じ書面の中で、「本合意書」と「本契約書」が混在している。条文の中で、定義されていない語を使っている。法人間の契約書のひな形から手直しして、個人には当てはまらない条項(役員や従業員に関する条項、会社の登記に関する条項)が残っている。管轄の裁判所が、具体的な裁判所名ではなく「被告の住所地を管轄する裁判所」となっているために、どの裁判所が管轄するのか書面からは決まらない。これらは、内容の問題ではなく、書き方の問題ですが、争いになったときに、解釈の余地を生みます。署名の前に、条文を頭から読み直して、書面の名前、当事者の呼び方、定義語、条文の相互の引用、管轄を点検します。

確認の問いと理由売主と買主が、契約書を作る前に確認しておきたい問い

  1. 売主は、商法上の商人に当たるか。小商人に当たるか。

    商人であれば、商法15条〜18条の2の規定が働きます。小商人であれば、一部の規定が適用されません。

  2. 店舗の賃貸人から、賃借権の譲渡の承諾を得られる見込みはあるか。

    承諾は事業の継続に直結します。承諾を得るまでの期間と条件を、契約日までに確認します。

  3. 保証金は、売主に返還されるのか、買主が承継するのか。

    民法622条の2第1項2号により、賃借権が適法に譲渡されると返還される筋になります。三者の合意で扱いを決めます。

  4. 譲渡する内装や備品は、売主の所有物か。リース品や、賃貸人の所有物は含まれていないか。

    売主の所有物でないものは、売主が売ることができません。目録で特定し、除外します。

  5. 売主は、譲渡後に近くで同じ商売を続けるか。

    続けるなら、商法16条の既定を外す特約が必要です。続けないなら、期間・地域・業務範囲を決めて書きます。

  6. 引渡し日の前後で、賃料や公共料金を、どう精算するか。

    基準日と日割りの方法を決めないと、精算でもめます。

起きがちなこと

個人事業・店舗の譲渡で起きがちなこと

  • 「収益を譲渡する」と書いたが、過去の売上金のことなのか、今後の売上のことなのかがわからず、精算でもめた。
  • 「その他一切のもの」と包括的に書き、売主の私物や、リース品、賃貸人の所有物まで引き渡す義務があるかが争いになった。
  • 賃貸人の承諾を得る前に代金を支払い、承諾が得られなかったために、店舗を使えなくなった。
  • 保証金を買主が引き継いだと思っていたが、賃貸人は売主に返還し、買主に新たな保証金の差入れを求めた。
  • 原状回復の費用を買主が負担すると書いたが、売主が付けた内装も含むのかがはっきりせず、退去のときにもめた。
  • 買主が賃料を滞納した場合の代金の不返還だけを書いて、解除の要件も、返還の範囲も書かなかったため、条項の効力が争われた。
  • 屋号を引き続き使うのに、債務を引き受けない旨の通知などの手当てをせず、取引先から売主の債務の請求を受けた。
  • 売主が譲渡後に近所で似た店を始めたが、競業禁止の既定を知らない、あるいは特約で外したことを買主が理解していなかった。
  • 契約書の名前や定義語が揃っておらず、どの書類のどの条を指しているのかが、あとからわからなくなった。

よくあるご質問

個人でやっている店を譲るのに、会社法の手続は必要ですか?

会社法の事業譲渡の手続(株主総会の承認、反対株主の買取請求など)は、会社が売主になる場合の規定で、個人事業の譲渡には使いません。代わりに、民法の売買の規定と、売主が商人であれば商法の営業譲渡の規定(15条〜18条の2)が働きます。契約書には、譲渡物の特定、代金、賃借権の移転、引渡し、競業などを、項目ごとに書きます。

屋号だけを売ることはできますか?

売主が商人である場合、商号は、営業とともにする場合か、営業を廃止する場合に限って譲渡できます(商法15条1項)。屋号だけを単独で売る形は、商法上の商号の譲渡としては認められません。屋号の使用を認める場合も、営業の譲渡とセットで書きます。商標の登録がある場合は、別に権利の移転が必要になるので、登録の有無を確認します。

店舗の保証金は、買主に引き継げますか?

賃借権を適法に譲渡すると、賃貸人は、受け取っていた敷金から賃借人の債務を差し引いた残額を、賃借人(売主)に返還する、というのが民法の定めです(民法622条の2第1項2号)。買主が引き継ぐには、売主、買主、賃貸人の三者の合意が必要です。承諾書に保証金の扱いを書き、売買代金の中で売主と買主が精算します。

買主が賃料を滞納したら、払った代金は返さなくてよいですか?

「返さない」と契約書に書くことはできますが、その定めは違約金か損害賠償額の予定にあたり(民法420条)、実際の損害に比べて著しく過大な場合は、効力が否定されるおそれがあります(民法90条)。解除の要件(催告と期間)と、使用期間相当額や損害を控除したうえでの返還の範囲を、書き分けておく方が安全です。

売った後に、近所で同じ商売を始めてもよいですか?

売主が商人である場合、別段の意思表示がなければ、同一の市町村と隣接する市町村で、譲渡の日から20年間は同一の営業を行ってはなりません(商法16条1項)。特約で外したり、期間・地域を定め直したりできます(ただし特約の効力は30年が上限。同条2項)。契約書に、続けるのか、禁止するのかを書いておきます。

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本ページは一般的な情報提供です。個別の取引への当てはめは、譲渡の対象、会社の形態、定款の定め、取引先との契約の内容によって異なることがあります。書き方の例として紹介している内容は、一般に見られる書き方を整理した例で、特定の事業者や取引を示すものではありません。条文は e-Gov法令検索で確認しています。参考: e-Gov法令検索 / 中小企業庁 / 個人情報保護委員会 / 法務省

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